『最新印画法全書』 (1923)

上田写真機店から発行された「写真術自修教科書」シリーズの一冊『最新印画法全書』。
古書市で2,000円ほどで入手。


 『最新印画法全書』
   1923(大正12)年5月25日発行(第4版)、2円
   編輯兼発行者 上田銀蔵     (大阪府泉北郡濱寺町船尾720番地)
   印刷人    荒川松之助    (大阪市東区南本町2丁目38番地)
   印刷所    上田写真機店印刷部
   発売所    上田写真機店   (大阪市南区安堂寺橋通4丁目)
          上田写真機店支店 (朝鮮京城南大門通3丁目)


桑田商会と並ぶ戦前の大阪写真界の雄、上田写真機店から数多く出版された写真術講習書籍のひとつ。
上田写真機店は写真材料商として写真術の普及に尽力し、この種の書籍を書き下ろすだけでなく、本書のような翻訳物を多数出版し、同時代の写真術の日本国内への導入者としての役割を果たしました。
「写真術自修教科書」シリーズはこのほかに、『写真原板修正術全書』『写真原板現像法全書』『戸外写真術全書』『室内写真術全書』などが発行されていたようです。
奥付には「売捌所全国各地写真材料店」とあることから、全国の写真材料商の店先で売られていたことが推測されるほか、発売所に上田写真機店の京城支店が挙げられていることから、いわゆる「外地」でも販売されていたことがわかります。


写真の中表紙に「亜米利加美術写真学校自修教科書」とあるように、本書はアメリカ合衆国のPennsylvaniaにあったスクラントン美術学校(Scranton, American School of Art and Photography)で使用されていたテキストを翻訳して出版したものです。
全33章構成で、第一章「印画法の原理」から始まって、前半は印画紙に関する種類別の概要、後半は各種印画法の説明が図版入りで掲載されています。
これ一冊で当時の一般的な印画法が理解できるすぐれものですが、それらが当時の写真界でどの程度実践されていたのかは、今となっては不明な部分もあります。

ちなみに、スクラントン美術学校では「実用写真術完全自修文庫」(全8巻)を発行していたらしく、そのうちの第4編を基礎として編輯されたのが本書です。
原著者はJ.B.Schrieverとありますが、著作権・版権が当時きちんとクリアされていたのかどうかはわかりません。
(ブログ「Photo Historyhttp://www.photographyhistory.net/にいくつか彼の書いたものがアップされているほか、スミソニアンに彼の著作がいくつか所蔵されています。)


翻訳を担当した上田竹翁(本名:寅之助、1866(慶応2)〜1941(昭和16)年)は文人であると同時に雑誌『芸術写真』の主幹を務めた人物で、写真術に関する数多くの翻訳書を手がけました。
上田写真機店を創業した上田貞治郎は次兄にあたり、自らも社員としてその経営を助けました。
ウィキペディアにも項目があります。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%8A%E7%94%B0%E7%AB%B9%E7%BF%81

これによると、1887(明治20)年に『新訳和英辞書』(青木嵩山堂)という日本人の手によって作られた最初の本格的な和英辞書を編纂した方でもあるようです。


上田写真機店は若き日の入江泰吉も一時社員として働くなど、関西の写真史(あるいは日本写真史)を語るうえで欠かせない写真材料商ですが、戦後途絶えてしまったのが惜しまれます。


【参考リンク】
■上田貞治郎写真コレクション(大阪市立大学 都市文化研究センター)
  http://ucrc.lit.osaka-cu.ac.jp/photograph/jsp/index1.jsp