『営業肖像写真入門』(1934)


肖像写真家にして著名な芸術写真家、成田隆吉執筆の営業写真館における肖像写真撮影法『営業肖像写真入門』。
ネット経由で5000円ほどで購入。


『営業肖像写真入門』
1934(昭和9)年6月15日発行、1円80銭
著 者 成田隆吉
発行者 中島謙吉(東京市板橋区板橋町3丁目287)
印刷者 萩原芳雄(東京市牛込区山吹町198)
発行所 光大社 (東京市板橋区板橋町3丁目287番地)


著名な芸術写真家であり、『芸術写真研究』(1922(大正11)年5月〜1940(昭和15)年(中断あり)、アルス→光大社)の編集を担当した中島謙吉(1888(明治21)〜1972(昭和47))が1928(昭和3)年に立ち上げた光大社は、アマチュアから職業人まで幅広い対象に向けて最新の写真技術を紹介する書籍を発行しました。真継不二夫(1903(明治36)〜1984(昭和59))、高山正隆(1895(明治28)〜1981(昭和56))ら、当代屈指の写真家が光大社から写真関連の書籍を刊行しています。
成田隆吉(1895(明治28)〜?)もその一人で、本書序文によれば「営業を志す者の為の指針といふ目的で書かれた書物は乍遺憾一つも見当らない」ことから中島謙吉の提案で二年がかりで本書は執筆されました。


本書の特徴は、何と言っても豊富に掲載された口絵写真に書き込まれた各写真のライティング図(採光図)にあります。
図にはカメラと被写体の位置関係、窓の位置、照明の位置と各照明の明るさが示されており、当時成田が新宿と京橋のスタジオで使用していたマツダ写真電球250〜500ワットのものがその使用個数とともに記載されています。成田の優れた肖像写真がどのようにして撮影されたのかがわかる貴重な記録と言えます。


このほか、本書では採光と現像、修整に多くのページが割かれていますが、特に修整については入念な記述がなされており、当時のスタジオで施された写真修整技術がどのようなものであったのか、その詳細を知ることができます。


著者の成田隆吉は1895年に茨城県水戸市で生まれ、その後中学まで秋田で暮らしました。1910年頃からベス単カメラを使って撮影を行うようになり、東京美術学校に入学後、1914(大正3)年に同校の臨時写真科に移籍しました。卒業後は小川一眞の写真館で修行、さらに東京美術学校臨時写真科の講師や時事新報社の写真係などを経て1924(大正13)年11月に自らのスタジオ「日の出屋写真部」(新宿角筈)をオープンし、翌年には芸術写真団体「洋々社」(中山岩太らが所属)の結成に加わりました。
本書の冒頭に「中島氏と私が識り合になつたのは七八年前だから…」とあるので、「洋々社」で活動を始めてほどなくして二人は知り合いになったのでしょう。出会いの契機は「或る雑誌に掲げる一文を私に所望された事」と記されています。


成田について惜しまれるのは、彼の戦後の活動が没年も含めて不明なことです。
どなたか情報をお持ちでしたら、ぜひお寄せください。


また、光大社については、1991(平成3)年にJCIIで作品展「光大五人展の軌跡」が開催されています。1928年に写真書籍専門出版社として出発した同社を源流とする光大派のあゆみを知ることができます。
http://www.jcii-cameramuseum.jp/museumshop/salon_books/windows/salon-books/L0000/L0005.html
後継の桐畑会(1936(昭和11)年設立)は現在も活動を続けているようですが、機関誌『光大』も健在なのでしょうか?
http://www.jcii-cameramuseum.jp/museumshop/salon_books/windows/salon-books/L0020/L0024.html


なお、この記事を書いている過程で発見したのですが、
以下のサイトはとても貴重な戦前の書物についての記録ですね。

奥付検印紙日録
http://d.hatena.ne.jp/spin-edition/


【参考リンク】
■日本カメラ博物館(JCII) http://www.jcii-cameramuseum.jp/